企業の成長スピードはどれくらいか（実践編）

企業の成長スピードを投資判断の１つにしています。（参考記事は、こちら）

今回は、T.S.Iというサービス付き高齢者向け住宅を運営する企業を参考に、成長スピードの観点から投資判断をした事例を紹介します。

なお、これは2023年1月時点で自分の投資基準に合うか判断したものであり、企業の良し悪しを判断したものではありません。（むしろ後述する理由が会社にとって将来を見据えた素晴らしい戦略変更だった、という可能性もあります）

T.S.Iという企業

T.S.Iは滋賀県を中心にサービス付き高齢者向け住宅『アンジェス』を展開する企業です。

T.S.Iは建築会社も保有しており、同一規格の設計で建築可能。コストを抑えることで家賃を安く設定でき、入居率も９７％程度と高い水準を維持しています。

T.S.Iは、施設数（居室数）の増加に伴い成長する、私が好む多店舗展開型企業です。加えて、真剣に投資をするか検討していた令和５年１月当時、成長戦略として「２０３１年までに１５０棟または４５００室」という魅力的な目標を掲げていました。

投資判断～成長スピードの観点から～

T.S.Iへの投資判断をする上で、成長スピードの観点から検討を進めていました。

T.S.Iの「２０３１年までに１５０棟または４５００室」という成長戦略から逆算すると、２０２４年以降に約１８％ずつ成長を目指していることになります。これは「毎年１５％成長」を目標とする自分にとって程よい成長スピードであり、（１）は問題なしと判断しました。

（３）については十分な情報を得るのが難しいですが、滋賀県にドミナント展開している事業の特性上、それなりに地域では知名度があるはずで処遇改善にも力を入れていくと説明があったことから問題なしと判断しました。

問題は（２）自己資本比率・キャッシュフローです。

T.S.Iは「2023年までには年間５棟程度、24年以降は出店を加速する（それにより31年までに150棟にする）」という戦略が発表されていました。それに沿うと24年以降、7棟、8棟、10棟～というペースで出店することになります。

T.S.Iの当時の自己資本比率は３７％程度。目安として３０％を維持する計画でした。

T.S.Iは、ビジネスモデル上、自社保有施設を売却し、その資金を元に新規出店するということを繰り返して成長してきました。しかし、自社保有物件は10棟を下回る数であり（年に１～2棟増えるとしても）「24年以降に出店ペースをあげるとすると、保有物件の売却では足りなくなり、資金繰りが難しくなる（または自己資本比率の低下がおきる）のではないか」と予想しました。

つまり、来たる2023年または2024年計画で「増資しかり出店加速による投資先行で利益の落ち込みがくる」と考えたのです。（その時が投資チャンスなのではないか、とも思いました）

T.S.Iの成長戦略の変更

そんな中迎えた令和5年2月13日の決算発表。今後の新規開設について「2031年の150棟目標については、コロナの影響や資材の高騰と半導体不足による開設遅れを鑑みて、2036年12月期に目標変更する」とアナウンスされました。

目標の後ろ倒しは予想外でした。それに従うと年平均１１％成長になり、（１）の基準を満たさないことになります。

ちなみにT.S.Iからは「収益面では訪問介護開始によって１棟あたりの収益アップでカバーしていく」という新しい戦略も同時に発表されています。

たしかに、T.S.Iの自己資本比率からすると「新規開設ペースを抑えて1棟あたりの収益力をアップする」という戦略は理にかなっているのかもしれません。

しかし、本当に訪問介護事業が当初計画をカバーできるほどの利益をあげられるか未知数ですし、2021年（令和3年）上場なのですから、その当時から新しい戦略を打ち出せたのではないかという思いもあります。

まとめ

自分の当初予想とは違う展開になりましたが、成長スピードが今後も続くのか３つの観点から検討することが大事と改めて腹落ちした良い事例になりました。

繰り返しになりますが、T.S.Iの新しい戦略が間違っていると言いたいわけではありません。（資金面から考えれば合理的ですし、入居率９７％を維持できるサービスも素晴らしいです）あくまで、成長スピードに関する見通しから自分の投資基準に合わなかった、という事例になります。

４～５銘柄に分散（集中？）投資する自分にとって、基準に合わない企業への投資を見送る（なるべくリスクを減らす）ことは全体に与える影響から大事な判断になると考えています。